1999年1月号  目 次:1999年1月〜12月) 

ニューズレター発刊のごあいさつ
支部長 亀山三郎

 皆様 明けましておめでとうございます。国際SD学会日本支部ニュースレターの発刊にあたり一言ごあいさつ申し上げます。

 国際SD学会日本支部は1990年に島田俊郎先生のご尽力により発足、1995年には学習院大学において、海外より20ヶ国84名の参加者を迎えて国際SD会議東京大会を開催、会議を成功裡に終えるとともに、支部活動を現執行部に引き継いで今日にいたっています。この間、毎月開催されるSD定例研究会ならびにナショナル・モデル研究会は、支部開設のホームページをつうじて広く内外に紹介され、学会本部からもたかく評価されています。研究会の内容は、今後、このニュースレターでも紹介して行きたいと思います。

 日本支部の設立にあたり、国際SD学会本部と交わされた定款には、支部活動の目的の一つに、わが国ナショナル・モデルの開発がうたわれております(Constitution2C.)。政治、経済、社会の問題に、いまほど、有効なSDナショナル・モデルの必要性が昂まっているときはないといってよいでしょう。日本支部によるナショナル・モデルの開発がSDの理論と応用の発達にも実質的な貢献となることを願っています。ナショナル・モデルの開発では、現在、社会主義市場経済の中国支部との研究交流もすすめられています。

 「ナショナル・モデル」の他に日本支部では、昨年、「SD理論」「環境モデル」「社会保障モデル」「金融モデル」「SDコースウェア」の5つの重点研究プロジェクトを発足させ、テーマごとに共同研究者を募っています。皆様の積極的なご参加を期待いたします。

 国際SD学会は、現在、世界47ヶ国に会員を擁する学術機関として、毎年、主催国をかえて開催される国際会議を中心に、積極的なSDの研究、教育、普及活動を展開しています。日本支部はその有力な一員として今後とも活動を推進して行きたいと思います。このニュースレターがそのための良き媒体となることを願っています。皆様の積極的なご支援をお願い申し上げます。

 

先月の活動

19981219日に行われた第74回システムダイナミックス定例研究会で、「コンサルティングにおけるSD SD定性モデル」について研究発表がありました。要旨は以下の通りです。

 

もともとはナショナルモデル間連の発表を行う予定であったが、講師の海外出張の都合で、私が急遽発表することになった。

私は、SDを使ったコンサルティングを長年続けてきたので、SDを使ったコンサルティングがどう変わっていったのかを述べ、そして、最近、アメリカを中心に盛んになってきたSystems Thinkingの概念が日本のコンサルテーションでも取り入れられるようになってきたので、定性モデルを使った応用事例を併せて紹介したい。

 

1SDを使ったコンサルテーションの時代変化

1980年代からSDを使ったコンサルティングを行っているが、この時代は、1970年代からの継続で、待ち行列形式のGPSS等他のシミュレ−ションも盛んに使われていた時代である。SDでは全体を定量モデル化しようとするものが多く、計量経済モデルと競合していたこともあって、コンサルティングでも、どこか計量経済モデルに引きずられたモデルが多かった。投資戦略や開発戦略の検討にSDと計量経済モデルでの解析の2チームがコンサルティングを行ったことがあった。SDのレポートは、考えられる代替案をシナリオに沿って分析したもので、企業側の評価は計量経済モデルで解析的に結論を出したものだったが、計量経済モデルチームの報告書の方が評価が高かった。

 

1980年代後半から1990年代前半にかけて、ゲーミング手法が登場した。これは、いくつかのコンピュータを接続し、各自にさまざまなシナリオを考えさせ、それに耐えられるモデルを開発していくという集団開発手法だが、このやり方でシミュレーションモデルを開発すると、開発スピードが飛躍的に伸びた。また、この技術を応用したシミュレーションも登場するようになった。コンサルティングでのSDの利用という点では、バブルの影響を受けて、財務投資に関する依頼が多かった。しかし、計量経済モデルやLPモデルの方が開発期間が短く、解析的に答えが出るので、たちうちできなかった。また、表計算ソフトの登場で、これを駆使した簡易的なDCF(Discount Cash Flow)ベースの財務モデルでの解決に駆逐されてしまった。

しかし、1990年代後半になってから、MITのセンゲのThe Fifth Discipline, MIT のLearning Organization, Systems Thinkingといったコンセプトによる定性モデルを中心とした思考法や問題解決法としての使われ方が盛んになり、そのコンセプトを日本でもコンサルティングに応用しようとしている。私が勤務しているコンサルティング会社もこのコンセプトの導入に熱心で、コンサルタント向け教育だけでなく、顧客向けの教育やトレーニングでも使われ出している。教育用ということでは、経営者のスキルを学習させるためのPeople ExpressフライトシミュレータなどさまざまなSDをベースにした優れた教材がある。

 

2 SD定性モデルとコンサルティングにおける応用

2.1 全体把握

SD定性モデルだが、コンサルティグでは主に4つの分野で有効であろうと思われる。1つは、全体像の把握で、SD定性モデルで、企業や業界の問題について全体の構造を描き、その中から、最も効果がある分野を絞り込み、必用であれば、部分について定量モデル化を行い、その部分についてさらに詳細なシミュレーションを実施する。最初から全体を定量モデルで構築するのは大変で、必用とする数量データ等も全部を集められない。しかし、部分によっては定量化も可能である。定量化することがあまり重要でないと考えられるならば、定性モデルでも十分であろう。

全体把握のために定性モデルを使った例:

ある企業から「提案型SE育成の教育プログラム」作成を依頼された。当然、雛形的な情報技術者用教育プログラムは持っているが、そのままそれを出す前に、何故顧客は提案型SEを養成したいと考えているかをインタビューで解明した。その結果、この企業は企業戦略としてネットワークを自社及び取引先と構築し、電子取引きによりビジネスの品質向上やスピードアップ、顧客の囲い込みを行いたいと考えていることが分かった。従って、ネットワークの構築提案とそれによる双方のメリットを試算できる能力のあるSEが真に求めているニーズであることが理解できた。当然ながらネットワーク間連の教科を強化したトレーニングプログラムの雛形もあるが、それをそのまま提出する前に、それを提供し、顧客がそれをそのまま実施することでこの企業のニーズが満たされるかどうか検討した。検討のために、教育プログラムでSEのスキルが強化されるループに間連する項目を挙げ、SD定性モデルを構築した。このモデルでの分析の結果、スキルを正しく評価してさらにスキルが向上するような仕事の割り振りや、本人の自己申告と結び付けていく教育計画、資格取得計画やインセンティブといった部分がきちんと結び付いていないことが定性モデルから発見できた。そこで、単にネットワーク技術を中心としたトレーニングを行なうだけでなく、インセンティンブをてこに、適切な仕事に配置してスキルを伸ばすことや、自己申告による自己学習で資格取得に結び付けることも併せて重用であることを指摘した。

 

2.2 改善のテコとなる部分の発見

2番目は、Vicious Cycleと呼ばれている悪循環に陥っている場合に、どこかを変えるとうまくいって、悪循環から抜け出せるポイントがある。このポイントがSD定性モデルでうまく見出せる場合がある。ある低開発国の電気配電事業の例では、予算不足から職員のトレーニングが少なく、給与も安いため、不正や利用者サービス低下を招いて、それが利用者からの不評や業務管理不足等による料金回収遅延を招いていた。ところが、別の同国の優良企業では、トレーニングを徹底させることにより、職員の意識改革を行い、24時間体制での利用者へのサービスや不正撲滅を実現し、料金回収も100%と高い利用者からの評価を得て、給与水準は変わらないにも関わらず、うまく経営している。この違いは、トレーニングを徹底して行い、それをてこに悪循環を起こさないしくみを形成できたことにある。

 

2.3 システムの行動パターン

3番目は、成長の限界やちょっとした初期の成功がきっかけで成功が成功を生むといった、システムの振る舞いの原形のようなものがセンゲから示されているが、全体像の中でそのような振る舞いをする部分を見出し、対応策を考えるのに有効であろう。しかし、まだこの部分の解明は十分行っていない。

 

2.4 柔軟な変更を求められるモデリング

最期は、変更の多いモデリングでの利用で、SD定性モデルは比較的簡単に変更ができるので、柔軟な変更が必用なシナリオプラニングのような企画手法に有効であろうと考えている。このシナリオプラニングは1970年代にも話題になったが、最近再復活したもので、新しく次々にシナリオを考え出し、それに全体的にうまく対応できるようにモデル自体を強化していくという計画策定手法で、業界再編成のような状況も考慮しながら戦略を練っていくので、ビジネスモデルでの追加や修正が多い。また、財務モデルを抜いたビジネスモデル自体も、成功要因を因果関係で結び付けた程度のもので済むので、十分SD定性モデルで代替可能であると考えている。こういったものにSD定性モデルが有効であると考えている。(もっとも、財務モデルも含めてSD定量モデルで代替できるかという点では、現在のStella等のソフトでは入出力部分の機能が弱いので難しいのではないかと考えている。)(以上)