1999年7月 (目 次:1999年1月〜12月)

定例研究会報告

第14回ナショナルモデル研究会の報告は、以下の通りでした。
報告テーマ:「環境問題-微生物分析によるアプローチ、イギリスの最近事例から」
報 告 者:落合 以臣(ジョンクェルコンサルティング)
日   時:1999年6月19日(土) 13:30~17:00
出席者数: 9名
1. 環境とSD

 もともとはエンジニアで、現在は、環境を中心にしたコンサルティングを行っている。6年前にテトラ(小波ポット)の技術者として、港湾関係に従事している時に、港湾のヘドロの問題に直面した。ここから、環境問題を取り扱うようになった。環境問題を始めてみて、日本は生産性の上がらない環境問題にはつくづく金をかけない国だということを感じている。約500兆円のGDPのうち環境にはコンマ数パーセント以下のお金しか使っていないのではないか。米国ですら環境は150兆円の市場と言われている。

 東芝のPCB土壌汚染が問題になったが、しかし、改良補修をするためにお金を使っていなく、そのままになってしまうのではないかと懸念している。

 環境では、ISO14000シリーズが有名だが、これは性格的には品質管理で、CO2の削減目標といった数値目標を立てるやり方である。現在、ビジネスと環境という観点で、世界的に主流になっているが、私自身は、この流れに疑問を感じている。レスター・サローも、環境は絶対循環しないゼロ・サムの世界であると言っている。むしろ、私としては、微生物を利用した環境測定やHACCP、バイオレミディエーションといったものを中心とした環境コンサルビジネスを展開したいと考えている。

2. ヘドロの活性化

  私が技術コンサルタントとして最初に取り組んだのは、海岸に見られる小波ポットの仕事であった。その時、港湾のヘドロの問題に出会った。その後、そのヘドロの処理について研究することになった。

 ヘドロは浚渫して、天日干しか沖捨てで処理する。しかし、現在、沖捨ては法律改正により、できなくなった。天日干しは、太陽光線の消毒効果で好気性土壌になる理想的な処理方法であるが、ヘドロの猛烈な臭みの問題が大きい。乾燥させために広い面積を占有するという問題もあり、浚渫して干すという処理方法も難しい。新しい技術が必要ということで、微生物利用ができないかと考えた。

 岩手県の陸前高田市古川沼がworstのヘドロとして有名であった。ただ、ここは、生活排水のみが流れ込んでいて、工業廃棄物が流れ込んでいないという意味で、(人間から出たものしか入り込んでいないという意味で)微生物で処理できるのではないかと考え、研究に取り組んだ。ここのヘドロは、手で持てるくらいの濃さのヘドロで、20~30万ppmもある。オイルのスラッジ程度の濃さがある。ものすごい汚れた下水でも4~5万ppmであるから、ヘドロはppmの値の桁が違うことが分かる。

 このようなヘドロを、高さ1.5m、巾1.0m程度のリアクターに入れ、下から空気を吹き込みながら撹拌すると、2~3日で菌が沈み始め、約2週間できれいになる。ここで、何をもってきれいとするかだが、BOD,CODやDO、ORPといったもので計測する。DOやORPは、溶残酸素濃度や酸化還元電位なので、例えば100mV以下というように瞬時に計れる。しかし、DODやCODは生物的な検査なので瞬時には分からなく、検査に2~3日かかる。微生物の活性度合いを見るDOでは、-500からスタートし、300くらいまで上がっていくので、300以上になったら活性化されたと見なせる。

 ヘドロに酸素を吹き込んで攪拌すると、眠っていた菌が活性化する。やがて、必ず中だるみ状態になる。これは菌が休止したのではなく、最初に活性化する菌と、途中から活性化する菌が役割交代している状態である。やがて、これ以上活性化しないという状態になり、菌が沈殿していき、水が澄んでいく。活性化に関係してくる菌は10種類程度で、最初は仮死状態である。反応が急変する際が、起きてくる菌が変わった所で、5種類は活性化しつづけるが、酸素反応の状態でどの菌がどこで活性化するかが変わっていく。こうして酸素活性化したヘドロは、土として利用しても問題なく植物が育つ。問題は、この処理されたヘドロを元の場所に戻しても、硫酸還元菌の存在で、硫酸還元菌が少しでも残っていると、再びヘドロ化してしまう。しかし、硫酸還元菌は酸素が無くても生きていける菌で、以外にしぶとい。硫酸還元菌は石灰を入れると死んでしまう。また、硫酸還元菌は比較的大きいので、濾過すると引っかかってしまう、しかし、土が全部落ちないのでこれも困る。

3. 検査とカルチャーコレクション

 こうして、浄化処理したヘドロは、土と水に分けられる。土は、元の場所に戻しても、植物が問題無く育つまで浄化される。しかし、戻す前に、どのような菌がヘドロに存在していたのか、硫酸還元菌がまだ残っていないかといった検査が必要になる。この検定は、日本では、理研か東大でしかやっていなく、しかもたかが検定に500万円もかかり、手続きも面倒で、時間もかかり、面白い菌が発見されれば取られてしまう。そこで、メールで出して、検定してくれる所を探したが、そういった所は世界でも2~3ケ所しかなかった。

 このような機関の1つが、スコットランドのNCIMB: National Collections Industrial and Marine Bacteria Ltd. Scotlandであり、マリーンバクテリアのコレクションを中心とした7500種のculture collectionを持っている。そこで、こことジョイントの会社を起こした。NCIMBは、もともとは国立の研究機関であったが、サッチャー政権時代に民営化された機関で、現在では、簡易にだれにでも安く分析を提供している。この世にある微生物のうち1%以下しか分かっていないと言われている。そのような状態の中で、7500種類の微生物のデータベースを持っていることはすごいことである。米国ではATCCが有名で、日本にも微生物を売っている。

 バイオ関係の会社が米国では一時期6000社以上もあったが、現在は2000社以下に減っている。MITで、石油を食べる菌を使った海の汚染回復の研究プロジェクトが発足したといった大きな話題もあったが、結局失敗している。菌だけでなく、酵母や黴も扱い、1~2億円もする電子顕微鏡も揃え、2~3千万円のDNAのシーケンシャルも揃えるとなると、バイオの設備投資に2~3億はすぐかかってしまう。このように、バイオ事業も設備投資にお金がかかるビジネスである。

 さて、culture collectionだが、欧州が3万種、米国が3万種保有していると言われる。しかし、日本はわずか4千種類しか保持していない。欧州はCABRで、米国はATCCでデータベース化を図り、国際化し、お互いのデータを交換して一本化しようとしている。例えば、欧州の機関に頼むと、米国ATCCの○○と同じといったコメント付きで菌を分けてもらえる。こういった国際化の流れに日本は背を向けている点が気がかりである。国際的には、この分野では日本の評判がきわめて悪い。

4. HACCP(食品衛生管理システム)

 昨年のO157や、アメリカのNASAが導入していることで有名になったHACCPだが、これは、米国のFDA基準に沿ったもので、これがないと加工食品の輸出ができないということで、日本でもちょっとしたブームとなっていて、いろんなコンサル会社やゼネコンがコンサルタントとして介入してきて、お金がかかるようなプロポーザルを食品加工業者に提出している。しかし、よく調査すると、そんなにお金がかかるようなことをHACCPが要求しているわけではない。このような状況になった一因には、日本の保健所のやり方にも問題がある。例えば、冷凍庫は-10~-30度Cを保つことになっている。この冷凍庫の検査に際し、日本では、保健所の人が検査し、温度が-30度Cに達していないから冷蔵庫を変えろと言われると、変えるしかない。冷凍庫の取り替えには莫大な金額がかかる。日本の問題は、基準が不明確なため、保健所の人の言うことが絶対になってしまう。日本は、基準の幅があるとすると、一番厳しい値を取ることになる。しかし、欧米の基準では、最低を取ればいい。従って、冷蔵庫の温度が十分下がっていない場合でも、コンプレッサーに問題があり、コンプレッサーさえ取り替えれば、常時-10度C以下を保てるとすれば、-30度Cを常に保てなくても認められる。コンプレッサーだけの修理と冷蔵庫全体の取り替えでは、金額が大きく違ってくる。同じく、食品加工場での照明器具でも、日本では、さび付いてしまうと、取り替えを命じられる。米国では、さび付いても、落っこちてこなければOKである。

5. バイオレメディエーションと土壌汚染

 東芝のPCB汚染の問題を冒頭に紹介したが、実は、油を食べる微生物は5種類しかいない。この油を食べる微生物も、しかし、水平方向には広がるが、垂直方向には広がらない。油は、海にある限りは約1年間で微生物に食べられてしまうが、陸に上がって、砂の間等に入り込んでしまうとどうしようもない。それはともかくも、面積方向(表面方向)にはバイオレメディエーションは有効だが、垂直方向には有効ではない。

 汚染土壌の改良をコンサルビジネスとしてやろうという話をしたら、ドイツ人の仲間から無理だと言われた。汚染は10年単位で起きるのだそうで、ライン川の油漏れも10年たって、地下水に流れ込み、地下水を汚染している。結局PCBやフェノールは残ってしまい、少しづつ溶解して地下水へ取り込まれる。土の浸透圧で、上がったり下がったしながら、結局、下に浸透してしまう。10年かかって汚染したものを1年以内に元に戻すことなど不可能であるという話であった。

6. 深層水とグロス・ポテンシャル

 深層水は、そもそもは米国の潜水艦が走っていて見つけたもので、米国では長い研究の歴史がある。スゥエーデン沖から海の深い所を流れてきて、インド洋や日本沖合に上がってくる流れで、近年、その流れが変わってきていると言われていて、地球環境の面で心配されている。

 この深層水に不思議な作用があることが騒がれていて、化粧水として売り出している会社すらある。深層水にはCO2が多く含まれている。CO2が多すぎて、微生物が少ないのではないかと考えている。従って、この不思議な作用、growth potentialは微生物によるものではないのではないのではないかと考えている。

 現在、チャンバーで加圧したまま採集し、加圧したまま培養してどうなるか、どのような微生物がいて、何に有効なのかを研究する予定である。
配布資料:「微生物分析によるアプローチ」

編集後記

 梅雨の中で紫陽花がしずやかに花を咲かせている今日このごろですが、皆様はお元気でしょうか。さて、7月20日から4日間にわたって、ニュージーランド、ウェリントンで、ISDC’99が開催されます。今回、日本からノミネートしている発表は6月12日現在で以下の6グループです。

  1. Y. Fukunaga, Y. Takahashi, N. Tanaka, A. Uchino, M. Morita: System Dynamics Analysis of Network Externality in Complex Market Structures, Part II: Basic Strategy for Re-entry and New Product Distribution (on Tuesday,July20 at Parallel Session 3: Competition and business cycles)
  2. S.Hidaka: System Dynamics: a New Tools for TQM (onTuesday,July20 at Parallel Session 8: Methodology comparison and mixes I)
  3. S. Kameyama, H. Kobayashi, T. Suetake: Government Reform in Japan - An Application of SD National Model based on SNA (onWednesday,July21 at Parallel Session 3: Macro economy II)
  4. S. Tsuchiya: A search for new methodology to create a learning organization (onThursday, July22 at Parallel Session 1: Organizational learning & Knowledge management II)
  5. T. Sumita, M. Shimazaki, T. Toyama: A Concept for Organizational Decision Support Using Structure Matrix (on Thursday, July22 at Parallel Session 5: Role of modelling/OR)
  6. K. Yamaguchi: Stock-Flow Fundamentals, Delta Time (DT) and Feedback Loop – From Dynamics to System Dynamics (onThursday, July22 at Parallel Session 6: Teaching II
黒野先生よりのメールで、山口薫大阪産業大学教授が、Dr. Matthias Ruthを迎え、淡路島で、第7回FOCUSセミナーを実施するという連絡がありましたので、お知らせします。詳しくは、htpp://muratopia.orgをごらん下さい。

学会誌第3号の発行準備を開始しますので、投稿論文及び投稿記事をお寄せ下さい。